ビジネスディナーで高級レストランを訪れた際、水を注文しようとして立ち止まった経験はありませんか?
「水をください」と言いがちですが、こういった場では「お冷をください」と言うべきか迷いますよね。
格式のある場所では、どちらの表現を使うべきか、失礼にあたらないように気を遣います。
過去に私が社員だった頃、上司との食事で「お冷をください」と頼んだところ「それは違う」と指摘されたことがあります。
本稿では、お冷とお水の具体的な違いについて説明し、どちらの言葉を使用するのが適切かを検討します。
また、和食における水に関するエチケットも紹介するため、特別なお食事の機会に備えている方には参考になるでしょう。
お冷とお水の区別を理解し、食事の際に洗練された振る舞いを心がけましょう。
お冷とお水の違いは?適切な使い分け方法
お冷とお水の間には何が違うのでしょうか?
以下では、お冷の定義とこれら二つの用語の適切な使い分けについて説明します。
お冷とお水の違い
辞典によると、お冷は「冷たい飲用水」と定義されています。
お‐ひや【▽御冷や】
読み方:おひや1 《女房詞「お冷やし」の略から》冷たい飲み水。
引用元:weblio辞書
一方で、レストランで提供される水の温度には特に定めがなく、店によって異なります。
区分けをするならば、お冷は冷たい飲み物を示し、お水は温度に関係なく使用される水を指します。
しかし、この区別は店員がお冷とお水の違いを理解していることが前提です。
一般にお冷とお水の使い分けを意識する必要は少なく、特にお冷を指定してもその意味を把握していない場合が多いです。
結局のところ、常温の水を求める際は「薬を飲むため、お水をいただけますか」と具体的に伝える方が無難です。
お冷が冷たい水を意味するようになった背景と語源について
冷たい水を「お冷」と呼ぶ習慣はどのようにして始まったのでしょうか?
ここでは、お冷という言葉の起源について掘り下げます。
お冷の起源とは?室町時代の言葉の秘密
改めて、お冷の定義を辞書で確認すると「女房詞「お冷やし」の略から」冷たい飲用水を指すと説明されています。
にょうぼう‐ことば〔ニヨウバウ‐〕【女房▽詞】
読み方:にょうぼうことば室町初期ごろから、宮中に仕える女房が、多く衣食に関して用いた一種の隠語。のち、将軍家に仕える女性、さらに町家の女性にまで普及し、現代の一般語になったものもある。省略や言い換えを行ったものが多い。「おでん(田楽)」「おひや(水)」「かもじ(髪・かずら)」など。御所詞(ごしょことば)。→文字言葉
引用元:weblio辞書
女房とは、宮中で高い地位にある女官たちを指し、彼女たちは自らの部屋を持つほどの高貴な身分でした。
女房たちが隠語を使った理由は何だったのでしょうか?
それは、食事や女性特有の事柄に関連する、あまり口に出すことを好まない言葉を避けるためです。
つまり、女房言葉は、高貴な身分の女性が不快とされる言葉を避けるために用いられた言語です。
これは、現代でトイレを「化粧室」と呼ぶのと似た理由からです。
女房言葉の役割
- 間接的に表現する
- 柔らかく、上品な印象を与える
- 知的で洗練された表現を可能にする
実際に、今日でも生活の中で使われている女房言葉は少なくありません。
現代でも生活の中で使用される女房言葉
- お冷
- おいしい
- おかず
- おかか
- おこわ
- おでん
- しゃもじ
- 青物
冷たい水を指す「お冷」は「お」を付けることでより上品な響きを持つようになります。
女房言葉には、以下のような特徴があります。
女房言葉の特徴
- 「お」を前につける
- 「もじ」「もの」を語尾につける
- 言葉の言い換え
- 言葉の重ね使用
これらの特徴を具体的な例に当てはめてみると、以下のようになります。
【女房言葉の特徴と起源】
- お冷: 冷たい水(お+冷)
- おいしい: 好ましい、見事な(お+美しい)
- おかず: 様々な料理(お+数)
- おかか: 鰹のこと(お+鰹)
- おこわ: 堅いご飯(お+固い)
- おでん: 田楽を指す(お+田楽)
- しゃもじ: 杓子を指す(杓+文字)
- 青物: 緑の野菜(青+物)
他にも、言葉を言い換える例として「波の花(塩)」や、言葉を重ねる例として「いしいし(団子)」があります。
女房言葉は時代を超えて広く使われるようになり、今挙げた例以外にも現代で使われている女房言葉は数多く存在します。
興味があれば、更に探求してみてください。
お冷とお水で丁寧な言い方はどちら?マナーも紹介!
お水とお冷のどちらがより礼儀正しい表現なのか、そしてお冷を使うべきでないのかについて解説します。
お冷は間違いではないが、お水のほうが無難
まず、お水もお冷もどちらを選んでもマナー違反にはならないということです。
ただし、一般的には「お水をください」という表現の方が好まれます。
その理由は「お冷をください」と伝えた際に生じた誤解の事例が存在するからです。
お冷と頼んだ際に、誤って冷たい日本酒を提供されたことがあります。これは、「ひや」という音が「おひや」と混同されたためです。
寿司店では、「お冷」「あがり(お茶)」「おあいそ(会計)」といった言葉が店側の専門用語として用いられるため、客としてこれらの言葉を使用するのは避けるべきとされています。特に、「あがり」「おあいそ」に関しては、客が使用するべきではないと一般的に考えられています。
ただし「お冷」を寿司店の専門用語として扱うかは意見が分かれるところで、これについては厳密な規則が存在しないのが現状です。
このように「お冷ください」と言った場合には、状況によっては誤解が生じるリスクがあるため「お水ください」と統一する方がより礼儀正しいと言えるでしょう。
懐石料理での飲み物の取り扱いとマナー
伝統的な懐石料理においては、食事の最中に水や茶を飲む行為は、一般的にマナー違反とされています。
その背景には、料理の風味を損なう可能性があるため、及びお茶の特有の渋味が食事の味わいと混ざり合い、不快な味覚をもたらすことが理由に挙げられます。
これらはいずれも、料理を提供する側への敬意を示す行為から来ているのです。
懐石料理は本来、茶会前に軽く食事をすることを目的とした、一汁三菜を基本とした料理です。
各品目は一口大で、多くの品目を楽しむことが特徴です。
では、飲み物なしでどうやって喉の渇きを凌ぐのでしょうか?
食事の途中で水や茶を飲む必要がないように設計されているわけです。
なお、お酒は食事の開始時に提供され、乾杯後は料理と共に自由に楽しむことができます。
では、懐石料理とは異なる会席料理についてはどうでしょうか?
会席料理は懐石料理から派生したもので、お酒を中心に楽しむ食事スタイルです。
懐石料理と比べメニューが異なり、揚げ物なども含まれることがあります。
一般的に私たちが体験する機会が多いのは会席料理で、この場合、食事の途中で水や茶を飲むことに対する明確な禁止ルールはありません。
一方で、懐石料理の場では、食事中に水を飲まないことがマナーとして推奨されています。
しかし、どうしても喉が渇いた場合は、一時的に席を離れて水分をとることも一つの対処法です。
現代では、懐石料理中に水を飲むことに対してそれほど厳しい見解はありませんが、高級店などで懐石料理を楽しむ際には、この点をマナーとして留意すると良いでしょう。
お冷やお水を上手に注文しよう
お冷とお水 | 「お水をください」が一般的には丁寧。お冷は場合により誤解の可能性あり。 |
懐石料理のマナー | 食事中の水分補給は基本的に不要。お茶やお水は料理の味を損ねる可能性があるため。 |
会席料理との違い | 会席料理ではお酒を楽しみながら食事。懐石料理はお酒以外の飲み物は控える。 |
飲み物のタイミング | 懐石料理では食前や食後に飲み物が供される。会席料理では自由にお酒を楽しむ。 |
懐石料理や会席料理などの和食の場では、お冷やお水の注文方法に気をつけることで、マナーを守りつつ楽しむことができます。
お冷やお水の適切な使用法を理解し、食事の場での礼儀正しい振る舞いを心がけましょう。